| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T22-6

陸上生態系と河川有機物動態

山下洋平(北大・地球環境)

河川水中には様々なサイズの有機物が存在し、孔径0.2~0.7µmの濾紙を通過する画分に存在する有機物は溶存有機物と称される。溶存有機物は微生物への炭素・窒素・リン源として重要であり、微生物ループを介し生態系と密接に関わっている。溶存有機物の主要な起源は土壌有機物、水圏での自生性有機物に区別する事ができ、これらは流域環境(植生や土地利用など)と関係する。しかし、流域環境の変化が溶存有機物濃度・組成に及ぼす長期的影響に関する知見はほとんどない。

本講演では、Coweeta水文試験地(ノースカロライナ州、米国)において植生変化が渓流水中の溶存有機物濃度・組成に及ぼす長期的影響について評価した研究を紹介する。1957年に流域内の全樹木(広葉樹)を伐採し、マツを植林したマツ植林区、1977年に流域内の全樹木を伐採し、森林を自然再生させた伐採区、記録の残っている1927年から大きな撹乱を受けていない対照区を集水域とする渓流水において2007年10月から2008年9月にかけて月に一度、試水を採取した。採取した試料は、GF/Fフィルターで濾過後、溶存有機炭素濃度および3次元励起蛍光スペクトルの測定を行った。

対照区渓流水中の溶存有機炭素濃度はマツ植林区・伐採区渓流水中と比較すると、一年を通して高い傾向があった。また、腐植物質の蛍光強度は、溶存有機炭素濃度と同様に、一年を通して対照区渓流水中の方がマツ植林区・伐採区渓流水中よりも高い傾向があった。一方、タンパク質様物質の蛍光強度は、一年を通して試験区間の差が見られなかった。これらの事より、流域の植生が変化する事により、渓流水中の溶存有機物中には長期的影響を受ける成分と、受けない成分がある事が明らかとなった。


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