| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T22-7

千年滞留した炭素が現在の河川食物網を支える~C-14天然存在比による証明~

石川尚人(京大・生態研セ)

河川生態系は、周囲の生態系と活発に物質をやり取りする系である。同時に河川の空間的異質性は生物群集の多様性を生み出し、捕食・被食関係を通じて複雑な食物網構造を形成する。しかしながら河川生態系における食物網構造と、生物にとって最も重要な元素の1つである炭素の循環とはこれまで別々に研究が行われてきた。そこで本研究では、放射性炭素14の天然存在比(Δ14C)を用いて河川食物網の炭素起源推定を行った。河川食物網には、礫表面に付着する藻類(付着藻類:自生性資源)と陸上植物リター(他生性資源)という2つの炭素起源が存在する。Δ14Cを用いることで、石灰岩地質の河川において「石灰岩から風化する年代の古い炭素を固定する付着藻類」と「現在の大気CO2に由来するリター」とを分離できることを示した。さらに、石灰岩河川と非石灰岩河川において、食物網のΔ14Cを比較したところ、石灰岩河川の付着藻類のΔ14Cは非石灰岩河川のそれよりも低かった。ただし非石灰岩河川であっても、付着藻類とリターのΔ14Cには大きな差が存在し、流域に石灰岩のような大きな炭素リザーバーがなくとも、Δ14Cを炭素起源推定の有効なツールとして利用できることが明らかとなった。また生物のΔ14Cは大きな変動を示したが、概ね付着藻類とリターの中間の値をとり、Δ14Cにより食物網が炭素循環の上に位置づけられることが分かった。これらの結果は、流域の保持する年代の古い炭素が、様々な時間的遅れを伴って河川食物網を支えていることを意味する。


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