| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
大島賞受賞記念講演 4
生物群集は、出現頻度が低く個体数も少ない多数の種と、出現頻度が高く数の多い少数の種から構成されることが一般的であるが、その理由の解明は生態学の一大テーマである。
最近のいくつかの研究から、しばしば局所群集はその場所の環境が好適で常に出現する種(コア種)とそうではない種(偶来種)から構成され、両種群では出現頻度分布や個体数分布などのパターンや分布と個体数を決定するプロセスが異なることが示唆されている。コア種と偶来種それぞれの出現パターンとその決定機構を探ることは、生物群集の理解に有効であると思われるが、その成否はいかにすればコア種と偶来種が峻別できるかに依存する。この点で岩礁潮間帯の固着生物群集は理想的な材料である。なぜなら個々の種は潮位に沿った出現のモードを持ち、出現季節が限られる種も多いため、特定の季節と潮位の群集を対象にして各種の出現季節と出現潮位のモードを明らかにすれば、コア種と偶来種の峻別ができるからだ。
そこで北海道東部の25の岩礁で行った9年間の調査から得られたデータを用い、夏の中潮帯の群集構成種を潮位と出現季節を基準にコア種と偶来種に峻別し、1)生態的特徴、2)種数の時空間変動、3)出現頻度分布の形状、4)局所群集における存否やアバンダンスの動態を左右する要因を比較した。
出現した全41種のうち、コア種は7種すべてが多年生であった。一方、偶来種には季節性の種も含まれていたが、ほとんどは低潮位に分布モードを持つ種であった。コア種は偶来種にくらべ種数の空間変異も年変動も小さく、コア種の出現頻度分布は2峰型なのに対し偶来種は単峰型となるなど、コア種と偶来種では種数の時空間変異や出現頻度分布の形状が大きく異なっていた。さらに、各種の存否やアバンダンスの動態を左右する要因もコア種と偶来種で大きく異なった。たとえばコア種では中潮位が、偶来種では中潮位以外の潮位がそれぞれ加入個体の供給源として重要であることが示唆された。双方の相互作用も非対称的で、偶来種はコア種から一方的に負の影響を被っていることや、コア種同士では種間より種内で密度効果が強く働いていることが示唆された。
以上の結果は、岩礁潮間帯の固着生物群集は、おもに潮位に沿ったニッチの違いに対応したコア種と偶来種から構成され、両種群間では数と分布の時空間動態のパターンとそのプロセスが大きく異なることを示唆している。