| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-21 (Oral presentation)

赤井谷地の自然再生地における植生動態

*竹原明秀,佐々木裕子(岩手大・人文社会)

国指定天然記念物の赤井谷地(福島県会津若松市;海抜525m,面積43.6ha)は,盆地状の平低地に発達する真正の高層湿原で,イボミズゴケ,ムラサキミズゴケなどのミズゴケ,ホロムイソウ,ホロムイイチゴなどの北方系植物が生育している。しかし,谷地の周辺は17世紀から始まる原野開発,戦後の水田・水路整備などによって谷地内は乾燥化が進行し,アカマツやチマキザサなどが侵入し,本来の湿原植生が変化した。そこで1995年から始まった土地改良事業に連動し,谷地内を本来の湿原植生に戻すための保全整備事業が開始された。特に谷地隣接部の水田を緩衝地として自然再生を行うこととした。2001年秋,谷地からの漏水を防ぐために遮水板を設置し,2002年から水田跡地(自然再生地)の植生を追跡した。

調査は,谷地に接する南部(390m×15m)と東部(165×10m)を帯状調査地として,96区に細分し,毎年,秋季に植生調査を行った。

遮水版を設置した1年後,イヌコウジュ,ミゾソバ,アキノウナギツカミなどの短命草本が優占する水田雑草群落が形成されたが,部分的にハンノキやヤナギ数種が侵入した。2年目以降,ハンノキ優占地,ヤナギ優占地,ヨシ優占地,タデ優占地に自然再生地は細分化が進行した。特にハンノキ優占地とヤナギ優占地では植生高が高まり,階層分化が明確になる一方,出現種数は大きく減少した。また,タデ優占地は短命草本から多年草へ置き換わり,5年目以降,ヨシが優占し,群落構造に大きな変化が見られた。ヨシ優占地では相観に変化は見られなかったが,出現種数は減少した。なお,ハンノキに対してヤナギ類は枯死個体が多く,種間にも差が生じた。このように10年間にわたり植生の変化が進行したが,本来の湿原植生への回復までには至っていなかった。


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