| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-04 (Oral presentation)

ボルネオ熱帯亜高山帯における優占低木種Leptospermum recurvum(フトモモ科)の葉形質多型と空間遺伝構造

*安藤聡一, 兼子伸吾, 井鷺裕司, 北山兼弘(京都大・農)

Leptospermum recurvumはボルネオ島キナバル山(4095m)に固有の樹木で、標高2700m以上で幅広い環境に優占している。例えば亜高木林で林冠を、森林限界上方でパッチ状低木林を、広く露出した岩盤のクレバスでクッション植生などを形成し、多様な形態とニッチを示す。さらに、この種は葉の毛密度に個体間で連続的な表現型が存在しており、出現する表現型の構成は立地環境によって異なっていることから、表現型間で局所適応が起こっている可能性がある。本研究では、上記のような多様なニッチや変異を示すL.recurvumの生態学的・進化学的特性に関する示唆を得るため、毛密度に関する表現型の分布調査と遺伝的多様性・空間遺伝構造を評価した。調査は標高3000~4000mのさまざまな植生タイプに分布する20集団で行い、各集団で10座のSSRマーカーを用いて遺伝解析を行った。

その結果、集団ごとの遺伝的多様性は全ての集団で一様に高い値を示した(平均He=0.41)。L.recurvumは最終氷期後に山地下部から分布を上方に移動させたと考えられているが、遺伝的多様性が維持されていることからこの分布変遷はボトルネックを受けることなくスムーズに行われたと推察され、このことが表現型の多様性に寄与しているのかもしれない。

また、集団間の遺伝的分化は極めて低く(平均FST=0.006)、遺伝構造は検出されなかった。このことからハビタットを越えて広く遺伝子流動が起こっており、広い範囲で任意交配集団を形成していると推察される。それに対し、植生タイプ間・標高間で表現型の組成は大きく異なっていた。したがって今後、表現型に遺伝的基盤が存在することが明らかになれば、自然選択によって毛密度形質における局所適応が起こっていることが言えるだろう。


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