| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-07 (Oral presentation)

二葉山のシリブカガシ林は維持されるのか?

*中野陽介,山田俊弘,奥田敏統(広島大・総科・環境)

常緑高木のブナ科シリブカガシ(Lithocarpus glabra) は国内のいくつかの地域で絶滅が危惧されている樹木であるにもかかわらず、広島市の中心地に位置する二葉山には、7.5 ha程にも及ぶシリブカガシの優占する常緑広葉樹林が発達している。シリブカガシが優占する群落は珍しく、シリブカガシの生態学的特性はほとんど分かっていない。そこで、本研究では二葉山のシリブカガシ林をモデルに推移確率行列モデルを用いたシリブカガシ個体群の存続可能性評価と、保全方策の検討を行った。

本研究では、構成個体を17のサイズクラスに分割し、野外調査から得た死亡率、繁殖率、生長率の3つのパラメータを用いて行列を作成した。生長率は2010年に設置した40 m×40 mのプロット内に出現する全てのシリブカガシを1年間調査することで推定した。繁殖率は同プロットにおいて、2010年から2011年の1年間に生産された種子数と新規加入した実生数から推定した。死亡率は2008年に設置された5つの20 m×20 mのプロットに出現したシリブカガシ個体を2011年に生存確認することで推定した。この調査でイノシシによる根返りと考えられる死亡が確認された。そこで、根返りによる死亡を除いた場合についても同様に行列を作成した。こうして構築した推移確率行列を用いて、個体群増加速度(λ)と各パラメータの弾力性値を算出した。

その結果、通常状態ではλは0.9823となり個体群は減少傾向を示した。しかし、イノシシによる死亡を除外して作成した行列を用いたところ、λは1.0022となり増加傾向を示した。以上より、イノシシの林床撹乱による死亡がシリブカガシ個体群維持の鍵を握ることが分かった。また弾力性分析によると、死亡速度が高い弾力性を示し、特に最大サイズクラスの弾力性が最大であった。この結果から台風などによる大きな個体の大量枯死は個体群減少に大きく寄与することが分かった。


日本生態学会