| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-09 (Oral presentation)

ブナの個葉形態の変異とその窒素・炭素含量との関係

八木貴信(森林総研・東北)

光合成器官である葉は物質生産の基盤である。葉の形態や窒素・炭素濃度は,光捕捉効率,力学特性,潜在的光合成能力,乾燥など環境ストレスへの耐性,構築・維持コストなどと関係し,その変異と相互関係は、不均一環境下での個葉の光合成特性の変異,植物の物質生産の可塑性を決定する。環境変異下での樹木の物質生産戦略の理解を深めるため,個葉間の形態変異,窒素・炭素含量の変異の関係を,ブナ稚樹を対象に検討した。

個葉は,奥羽山脈・秋田駒ヶ岳のササが繁茂する択伐16年後のブナ天然林および林道沿いで,林道沿いから樹冠下まで様々な光環境に生育する様々なサイズのブナ稚樹の様々な樹冠部位から採取した。各個葉の葉身長,葉幅,葉面積,乾葉重,窒素・炭素含量を測定し,その形状比(=葉長/葉幅),LMA(=葉重/葉面積),NPM(=窒素含量/葉重),CPM(=炭素含量/葉重),NPA(=窒素含量/葉面積),CPA(=炭素含量/葉面積)を計算した。

ブナ稚樹の個葉アロメトリーは,葉身が長くなるほど葉幅が尻上がりに大きくなり,葉身拡大が,小さい葉では長さ志向,大きい葉では幅志向であることを示した。葉重の葉面積に対する増加も尻上がりだったが,その度合いは極めて弱く,葉面積とLMAは無相関になった。LMAに対し,葉身長は負の相関,葉幅は正の相関を示し,葉の形状比に対し,葉面積とLMAはともに負の相関を示した。窒素・炭素濃度は,葉面積に対してはNPMが正の相関,CPMが負の相関を示し,LMAに対してはNPMが負の相関,CPMが無相関を示した。NPAとCPAはLMAに対して強い正の相関を示した。

以上より,ブナ稚樹では,小さい葉は葉身長への投資を優先し茎からの距離の確保によって光捕捉効率を高めているのに対し,葉身長とともに葉幅も充実した大きな葉は大きなLMA,優先的な窒素配分によって光合成能力をさらに高めていることが示された。


日本生態学会