| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-03 (Oral presentation)

モツゴ Pseudorasbora parva における性比の偏り

*朝倉瑞樹(信州大・理),小西繭(信州大SVBL),高田啓介(信州大・理)

性比の偏りは様々な生物種で確認されており、遺伝的要因と環境要因に影響される。爬虫類、両生類、魚類の幾つかの種では、性は遺伝的に決定されるほかに、環境要因によっても左右される。魚類においては、ヒラメ・ペヘレイに温度依存的性決定が見られ、いずれの種でも稚魚期または孵化時の水温が高温なら雄に、低温なら雌に性比が偏る。一方、ベラ・ブダイ・クマノミなどの異時的雌雄同体魚種は社会環境によって性転換することが知られており、これらの種でも性比が偏る。性比の偏りは繁殖成功度に影響を与え、ひいては、その種の進化的な繁殖戦略をも左右しかねない。モツゴはため池に生息するコイ科の淡水魚であるが、本種でも性比に偏りが生じている個体群が本研究で初めて見出された。

長野県犀川水系の3つの溜池のモツゴ個体群で2011年4月から11月の間に月1回トラップによる採集を行った。肉眼及び組織学的に生殖腺を観察し、個体群毎、採集時期毎の性比を求めた。また、個体群の齢構成を推定するために標準体長を測定し、繁殖期推定のために生殖腺重量指数GSI(%)を算出した。産卵開始直前のGSIがピークに達する時期は3個体群で5日ほどしかずれていなかったが、その時の水温は3つの池で2℃以上も差があり、池によって産卵開始水温が大きく異なると推測された。3つのうち1つの個体群では、産卵期、非産卵期を問わず、調査期間全てにおいて性比は雄に有意に偏っていた。一方、残り2つの個体群では、産卵期のみで性比が雄に有意に偏り、非産卵期には性比に偏りは見られなかった。モツゴの性比の偏り方が個体群間で異なることや、同一水系に分布するにも関わらず個体群によって産卵開始水温が異なることから、モツゴは生息環境に対して繁殖特性を変化させている可能性がある。


日本生態学会