| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-13 (Oral presentation)

成長に伴うニッチシフトの時間的“ずれ”が在来種と外来種間の種間競争を軽減する

*長谷川功(北水研),山崎千登勢(北大・環境科学院),大熊一正(北水研),伴真俊(北水研)

動物では、成長に伴ってニッチシフトする種が多い。したがって、成長過程で類似するニッチを利用する2種がいても、ニッチシフトのタイミングが時間的にずれていれば、ニッチ重複は生じず、種間競争も生じないと考えられる。外来種―在来種の種間競争は、外来種定着メカニズムに関する研究で数多く取り上げられてきたが、「ニッチシフトの時間的ずれ」にまで言及した例はこれまでなかった。北海道のいくつかの河川では、在来サケ科魚類サクラマスの生息下で外来サケ科魚類ブラウントラウトが定着している。先行研究から、ブラウントラウト稚魚は、サクラマス稚魚と同様に流れが緩いハビタットを利用することが示され、体サイズがサクラマス稚魚よりも極端に小さいために競争において劣位だと考えられている。ここで、演者らは、ブラウントラウトが定着できた一因として、両種稚魚の浮上期(遊泳を始める時期)が異なるために、同時期における稚魚の成長段階も異なり、利用ハビタットが重複しないためと考えた。

このことを確かめるために、2010年4月から7月に石狩川水系の河川で潜水目視を行い、両種稚魚のハビタットを比較した。また,水槽内での攻撃行動の観察から競争における優劣を把握した。その結果、サクラマスは4月中旬には流速約10cm/sの場所を利用していたが、ブラウントラウト浮上前の5月上旬には、約20cm/sの場所にシフトしていた。一方、ブラウントラウトは浮上直後の5月下旬は流速約10cm/sの場所を利用していた。また、サクラマスからブラウントラウトへの攻撃の方が逆よりも高頻度で起きたため、稚魚期ではブラウントラウトはサクラマスよりも劣位であると考えられた。以上より、稚魚期ではブラウントラウトはサクラマスよりも競争において劣位で両種のハビタットも類似するが、その利用時期がずれているため競争が回避され、このことがブラウントラウト定着に寄与していると考えられた。


日本生態学会