| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-14 (Oral presentation)

異なる将来予測シナリオ下でのモンゴル放牧システムの持続性の定量的評価と比較

加藤聡史,藤田昇,山村則男(地球研)

乾燥地の草原植生は、降雨等の気象変動の影響を受け、バイオマスが時空間的に大きく変動する。こうした変動リスクを軽減するため、乾燥地では定住的な農業ではなく広域の草地を利用する遊牧が伝統的に行われてきた。こうした放牧下での生態系では、人間の放牧活動が放牧地の植生の分布パターンやバイオマスに応じておこなわれる一方、放牧地の植生自体も家畜による摂食によって変化する。すなわち、社会制度や経済的な変化によって人間活動が変化すると、植生環境が変化する一方で、植生環境に依存した放牧を中心とした人間活動も当然影響をうける。しかし、人間活動と生態系との相互な影響について双方向から定量的に予測・評価するような研究はほとんど行われていないのが現状である。

モンゴルでは古くから遊牧が営まれてきたが、近年の市場経済化や温暖化・乾燥化によって、ウランバートルなど市場にちかい都市周辺部を中心として家畜頭数の短期間での急激な増加と集中化傾向が報告されている。このような急激な放牧圧の増加に伴い、都市部周辺の植生バイオマスの状態悪化が懸念されている。同時に、ウランバートル周辺とそれ以外の僻地とでの所得格差の拡大も問題になりつつある。

本研究では、降雨量に応答した牧草地バイオマス成長の空間変動を格子モデルとして記述し、その上で牧民が世帯ごとに牧畜を行うような個体ベースシミュレーションモデルを開発した。このモデルでは牧畜に関するデータを初期値として用い、30年後の牧草地の状態と世帯当たりの保有家畜頭数を定量的に予測する。そのために、現在のモンゴルの牧畜に関する実測データと統計データを利用して、規模(都市部/都市近郊)とモード(遊牧型/定住型)が異なった4種類のシナリオを用意した。このモデルを用いて、それぞれのシナリオ下での環境的・経済的な持続性についての予測と比較を行い、モンゴルにおける持続的な放牧の在り方を検討する。


日本生態学会