| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-10 (Oral presentation)

耕作放棄によって"元"普通種が絶滅する

*大澤剛士, 神山和則(農環研), 三橋弘宗(兵庫県博)

土地利用の変化は、生物多様性を脅かす重大要因の一つである。特に人間活動によって物理環境を維持させてきた農業生態系では、土地利用変化による生物多様性への影響が極めて大きい。本研究は、近年その拡大が問題視されている耕作放棄に注目し、その拡大が絶滅危惧植物の多様性にもたらす影響を日本全国スケールで評価した。評価の単位は約10km四方のメッシュ(標準2次メッシュ)を採用し、耕作放棄面積の空間分布と絶滅危惧種の分布それぞれを同じメッシュ単位で整備した。耕作放棄面積データは、農林水産省の統計調査である農林業センサス(2005年)を利用した。絶滅危惧種の分布データは、環境省生物多様性センターの公開データを利用した。そこから元来日本全国に広く分布しており、現在は分布域の大部分で絶滅の危機に瀕している”元”普通種23種を選定し、それらの分布記録があるメッシュと、そのメッシュの耕作放棄面積の関係を検討した。結果、23種全てについて、分布記録があるメッシュの耕作放棄面積は、全国平均に比べて有意に大きかった。さらに23種の主要ハビタットを検討すると、水田が最も多く、続いてため池、水路、湖沼と、水に関連する様々なハビタットを要求していた。これは、日本の伝統的な農地、すなわち里山景観が絶滅危惧植物のハビタットを形成維持してきたことを示唆する。本研究によって、1)耕作放棄の広がりは、日本中において植物の絶滅を引き起こす駆動因になっていること、2)耕作放棄は単一ではなく、様々なメカニズムで植物の絶滅をもたらしている可能性が示された。


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