| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-16 (Oral presentation)

ハクセンシオマネキの再生バサミは偽のシグナルか?

*逸見泰久(熊本大・沿岸域セ),小島太一(熊本大・院・自然)

シオマネキ属のオスは,巨大ハサミを闘争などで失っても,次の脱皮の際にはそれを再生することができる.しかし,再生バサミは,見た目は巨大であるが,筋肉が未発達な“見かけ倒しの巨大ハサミ”である.本研究では,オリジナルおよび再生バサミを持つオスの形態や行動を比較し,「再生バサミは,交尾のための急ごしらえのはさみ」,「闘争に関しては,偽のシグナルを発している」可能性を示した.

まず,野外飼育により,再生バサミには,オリジナルバサミのような巨歯がないことが明らかになった.次に,野外で,オリジナルと再生バサミのオスの形態を比較したところ,再生バサミは軽く,指節が長く,前節が小さいが,巨大ハサミ以外の形態には差がないことがわかった.また,オリジナルと再生バサミの挟む力を測定したところ,再生バサミはオリジナルよりも 28 % 挟む力が弱かった.さらに,実験的にオスを闘わせたところ,再生バサミのオスは,闘争の際,威嚇を多用したが,接触による闘争に発展すると勝率が下がった.そのためか,再生バサミのオスは,巣穴保持個体(定住個体)の17 %と少なく(残りの83 %がオリジナルバサミのオス),逆に,放浪個体は巣穴域では33 %,水際では75 %と多かった.

最後に,オリジナルと再生バサミのオスで,単位時間のwaving回数,wavingでハサミを振り上げたときの高さ(甲幅との比)を比較したところ,有意差はなかった.また,求愛を行っているオスの18 %,巣穴内交尾に成功したオスの12 %が再生バサミを持つオスであり,交尾成功の割合が6 %少なかったが,有意差はなかった.

以上の結果は,再生バサミを持つオスは闘争に弱い(放浪個体になりやすい)が求愛に関しては大差ないこと,闘争に関しては“巨大で強いハサミを持っている”という偽のシグナルを発していることを示唆している.


日本生態学会