| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) K1-10 (Oral presentation)

湖水中に溶存するDNA断片から魚類のバイオマスを推定する

*高原輝彦,土居秀幸(広大・サステナセンター),源利文(地球研),山中裕樹(龍谷大・理工),川端善一郎(地球研)

近年、湖や川から採取した少量の水を調べることで、そこに生息する動物の排泄物などに由来して水中に溶け出たDNA断片(環境DNA)の有無から、対象動物の在/不在を明らかにする手法が開発されてきた。そこで、水中に溶存するDNA濃度を調べることで対象動物のバイオマスを推定できるとの仮説をたて、コイを対象にした実験と調査を行った。水中に溶存するコイのDNAを、ミトコンドリアのシトクロムb遺伝子をターゲットにしたプライマーを用いてリアルタイムPCRで定量した。水槽実験と野外メソコズム実験による結果から、コイのバイオマスと環境中のDNAの濃度は強い正の相関関係を示し、環境DNAの濃度を調べることでコイのバイオマスを推定できることがわかった。2011年2月、滋賀県の伊庭内湖21箇所から採取した水サンプルに溶存するコイのDNA濃度を調べたところ、高い水温の場所ほど濃度が高いことがわかった。コイのDNA濃度はバイオマスと正の相関関係を示すことから、本調査をおこなった水温の低い冬季では、多くのコイがより暖かい場所を選好していることが推測できた。また、10月—12月にかけて、東広島市周辺および瀬戸内の島嶼に点在する50箇所以上のため池におけるコイのDNAについて調べた。目撃情報や目視によってコイの生存が確認できた池においては、DNAをおおよそ検出することができた。これらのことから、環境DNAを用いて自然環境に生息する水生動物の在/不在およびバイオマスを推定できることが示唆された。今後、目視や採捕の必要性がない環境DNAを用いた手法は、希少種の保全や外来生物種の侵入状況の把握などの応用的研究への発展が期待される。


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