| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) L1-06 (Oral presentation)

ヤマトシロアリの野外コロニー内の血縁構造

諸岡史哉・*北出理(茨城大・理)

シロアリのコロニーは有翅虫由来の王と女王によって創設される。日本に分布するヤマトシロアリでは、創設女王が一部のメス個体を単為生殖で生産し、創設女王の死後、単為生殖によって生まれた二次女王が創設王と交配を継続する、という特異な繁殖様式(AQS)をとることが、Matsuura ら(2009)のマイクロサテライト遺伝子座を用いた野外コロニーの調査から提唱された。この繁殖様式では、二次女王が生産した子も、一次女王の子と同じ遺伝子型の組合せをとるはずであり、調べられた複数の野外コロニーはその予測に従っていた。一方、これに先立ち茨城県で本種の野外コロニーを調べたHayashiら (2005)は、約半数のコロニーで、AQS繁殖様式では説明できない遺伝子型や複数のミトコンドリア遺伝子型の存在など、矛盾する結果を報告していたが、この調査では生殖虫は調べられていなかった。

本研究では、岩手から山口に至る6集団から、本種コロニーの繁殖中枢部分を7つ採集し、その生殖虫組成を調べた。また、全生殖虫と、ニンフ・ワーカー各12-24個体について5つのマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を調査した。すべてのコロニーで1個体の創設王と、8-143個体の単為生殖由来の二次女王(ニンフ型幼形生殖虫)が見つかった。遺伝解析の結果、茨城・長野・山口で採集された3コロニーではワーカーとニンフにAQSでは説明できない遺伝子型や、親生殖虫がもたない対立遺伝子を持つ個体が多く含まれた。これらのコロニーでは、コロニーの融合や多雌創設等に由来する個体が繁殖中枢に含まれており、一部繁殖している可能性もあると考えられる。幼形生殖虫以外で、単為生殖で生まれたと考えられる個体(N=5)は全てニンフであった。単為生殖由来の個体はニンフに分化しやすいと考えられ、これは本種の階級分化遺伝モデルと合致する。


日本生態学会