| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) M1-03 (Oral presentation)

交尾器形態変異は交尾のパフォーマンスにどう影響するか:マヤサンオサムシの亜種間変異を用いた検証

*奥崎穣(京大・理),曽田貞滋(京大・理)

昆虫の雄交尾器の挿入器部分にはしばしばキチン質もしくは膜状の突起物が確認される。このような突起物には、交尾器結合を確保するアンカー、あるいは精子競争で有利となる何らかの機能があると考えられる。オオオサムシ亜属は、雄交尾器内袋(挿入器)にフック状の交尾片を持つ。交尾片は、雌交尾器のポケット状の膣盲嚢に挿入され、アンカーとして機能する。交尾片と膣盲嚢の長さには著しい種間変異があり、派生的なグループで著しい伸長傾向が見られるが、「どのような選択過程によって雌雄交尾器の伸長進化が起こるのか」を明らかにすることが重要である。本研究では、まず、集団内で相対的に長い交尾片を持つことが、授精において有利になるかを検証するために、マヤサンオサムシの亜種間の交尾器形態変異を利用した実験を行った。この実験では、体サイズはほぼ等しいが、平均的に交尾片と膣盲嚢長が短い京都集団(M:原名亜種)と長い信楽集団(S:信楽亜種)を用い、M♂×M♀、M♂×S♀、S♂×M♀、S♂×S♀の組み合わせで1回交尾を行わせ、交尾行動と精包形成を観察した。なお、交尾片、膣盲嚢、陰茎の平均長は信楽集団の方が京都集団よりも長かったが、それぞれの範囲は重なっており、また、膣長には集団間の違いはなかった。交尾行動は集団内でも集団間でも同様に行われ、精包形成率と交尾時間に雌雄の組み合わせによる違いはなかった。この結果は、実際の交尾器部分のサイズを説明変数としても同じだった。したがって、今回の実験集団の交尾片の相体長変異は、1回交尾でのパフォーマンス、すなわちアンカーとしての機能には影響しないことが示された。本亜属では、雌が連続交尾をした場合、雄は先に交尾した雄の精包を除去することが知られており、交尾片が精子競争に使われている可能性もある。今後、精子競争における交尾片の機能を含めて、長い交尾片の適応的意義を調べる必要がある。


日本生態学会