| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) M1-09 (Oral presentation)

トドマツ標高別集団の局所適応-長期の相互移植試験による実証とその応用

*石塚航, 後藤晋(東大院・農学生命)

北海道全域に分布するトドマツ(モミ属,Abies sachalinensis)において標高に沿ってどの程度の局所適応が起こっているかを、相互移植試験の長期データから明らかにした。東京大学北海道演習林の約1,000mの標高勾配 (標高230~1,200m) に沿って1974年に標高間相互移植試験が始められ、8採種集団由来の苗が6試験地に植栽された。2009年に全個体の36年生時の樹高と生残を調査し、それぞれに与える遺伝子型、環境の効果とその相互作用をモデルによって推定した。モデルの推定値をもとに生産力(樹高×生残率)を算出した後、各試験地において同じ標高に由来する自生集団が、他の標高に由来する外来集団よりも有利な生産力を示すか検証した。

その結果、樹高や生残率に明瞭な遺伝変異が認められ、モデルによる推定の結果、高標高ほど両形質が低下する共通した標高クラインが検出された。採種集団と試験地間の標高差を用いて生産力を比較した結果、上方と下方への移植のいずれにおいても、標高差が大きくなるほど有意に生産力が低下することが示された。これはトドマツが生育する標高に沿って局所適応していたことを示唆する。標高差の効果は上方へ移植した場合に大きく、高標高地域ほど強い選択圧がはたらくと推察された。

標高勾配は大きな温度変化をもたらすため、本試験において下方移植した場合の結果は将来の温暖化時の応答予測に応用できると考えられる。本研究の検証結果からは、本種が現在の環境に局所適応していることで、温暖化後に期待される最適な生産力は実現できないと予測された。すなわち、たとえ温暖化時に生産力の向上が予測されても、温暖化後の環境と生育集団の遺伝子型とのずれによって、温暖化には追随できないことを示す。そのため、可塑的応答の程度が大きい他種との競争下では不利になる可能性もある。将来の森林動態の予測には局所適応の実態の解明が重要だと指摘された。


日本生態学会