| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-336J (Poster presentation)

天ヶ瀬ダムのダム湖におけるカワヒバリガイの発生動態

*馬場孝(滋賀県大・院・環境科学), 浦部美佐子(滋賀県大・環境科学)

カワヒバリガイは利水施設での通水障害を引き起こし、魚病被害をもたらす吸虫の宿主となる有害外来生物である。これらの被害を軽減するため本種の個体数抑制が望まれている。

カワヒバリガイは受精後約24時間でD型幼生となり、10~20日程度の浮遊期間を経て基質に定着する。淀川水系では、天ヶ瀬ダムのダム湖(鳳凰湖)で本種が大量に発生しているが、その湖水の滞留時間は短いことが知られているため、本種の着定前幼生の生残に影響していると考えられる。本研究では、鳳凰湖水の滞留時間の目安として放流量に着目し、カワヒバリガイの幼生密度動態との関連を調査した。

調査は2010年と2011年の6月~9月に行った。天ヶ瀬ダムから1.6 km下流の宇治川でカワヒバリガイの浮遊幼生を採取したところ、前日のダムの平均放流量が70 m3/s未満の時には幼生が多かったが、70 m3/s以上の時には極端に減少した。洪水期における鳳凰湖の貯水量は6×106 m3前後であるため、70 m3/s以上で放流した場合、1日で湖水が入れ替わる。そのため、70 m3/s以上での放流時には、ダム湖内で形成された受精卵がD型幼生まで成長していなかったと考えられる。従って、このような放流条件では、本種幼生はダム湖内や直下には定着できず、下流域で定着する可能性がある。また、ダム湖内に先端10 cmをほぐしたロープを2週間浸漬し、付着したカワヒバリガイの幼生量を調べた。その結果、浸漬中に放流量が70 m3/s以上の日がない期間には付着量が1000個体以上に達したが、放流量が常に70 m3/s以上の期間にはほとんど付着していなかった。以上の結果より、鳳凰湖水の滞留時間の変動は湖内や下流域における本種の分布と生息密度に影響することが示唆された。


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