| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-043J (Poster presentation)

気候変動下におけるミズナラの幹肥大成長と解剖学的特性の長期変化

*鍋嶋絵里(東京農工大・農), 久保拓弥(北大・地球環境), 安江恒(信州大・農), 日浦勉(北大・苫小牧研究林), 船田良(東京農工大・農)

年輪を解析することにより、樹木の気象応答を長期にわたり明らかにできる。また、年輪内の道管の解剖学的特性は樹木の水分通道特性に深く関与し、成長の生理メカニズムを知る上で有用である。環孔材の孔圏道管は、直径が大きいために水分通道への寄与が高く、測定も比較的容易である。そこで本研究では、環孔材であるミズナラの成木の年輪を用いて、肥大成長の長期的な変動傾向および解剖学的特性との関係を明らかにすることを目的とした。本研究の調査地である北大苫小牧研究林では、温暖化の影響が示唆されており、降水量が減少傾向にある。よって、こうした水分条件の変化が孔圏道管の解剖学的特性や年輪幅に影響するかどうかについても着目した。

対象とする樹木は2004年の採取時に胸高付近の年輪齢で74年以上のものを用い、材が成熟に達したと考えられる年輪齢40年以上(1970年以降)について解剖学的特性を測定した。測定したパラメータは、各年輪における孔圏道管の個数と面積、および年輪幅と孔圏・孔圏外幅である。孔圏道管の測定および孔圏・孔圏外幅の測定は、スキャナを用いた画像解析により行った。また、年輪幅については軟X線で撮影した画像を測定することにより求めた。測定の結果、解剖学的特性と年輪幅の年変動にはそれぞれ違いがみられた。孔圏道管は主に春先に形成されるが、年輪内ではその後の孔圏外幅が大きい割合を占める。よって、それぞれの主な形成時期の気象条件が異なることが要因としてあげられる。一方、年輪幅と解剖学的特性の間には相関がみられた。このことから、孔圏道管の解剖学的特性による水分通道機能を介した肥大成長への影響、もしくは前年の光合成生産量による孔圏道管および肥大成長双方への制限が示唆された。このような内的要因は、肥大成長の年変動のメカニズムを解明する上で重要と考えられる。


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