| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-053J (Poster presentation)

安定同位体比を用いた大気汚染物質が屋久島の樹木に与える影響の評価

*隠岐健児,永淵修,尾坂兼一,王文豪,橋本尚己(滋賀県大院・環境),手塚賢志(ヤクタネゴヨウ調査隊),中村高志(山梨大院・国際研究セ),松尾奈緒子(三重大院・生資),西田友規,中江太郎(滋賀県大・環境)

屋久島と種子島にのみ分布するヤクタネゴヨウ(Pinus amamiana)は,種子島と屋久島にわずかしか残っておらず絶滅の危機にある.ヤクタネゴヨウの個体数が減少している理由として,中国大陸から輸送された大気汚染物質によるストレスの影響が新たに指摘されている.屋久島は周囲に大規模な大気汚染物質の発生源がなく,西風が卓越していることから,中国大陸から輸送された大気汚染物質の観測に適している.

本研究では越境輸送される大気汚染物質が屋久島の樹木に与える影響を,炭素・酸素安定同位体比(δ13C,δ18O)を用いて評価した.

2011年9月に屋久島西部の3か所(標高200m,400m,800m)で,8樹種9個体から葉と枝を採取した.葉組織中のδ13Cから長期的な水利用効率を,葉組織と枝中の水のδ18Oの差(Δ18O)から長期的な蒸散特性を推定した.

400mのゴヨウマツ・クロマツ,800mのツガ・ゴヨウマツは,他の地点や同地点内の別樹種よりδ13Cが低かった.またこの4個体中において,400mのゴヨウマツとクロマツはさらにδ13Cが低かった.この4個体中でΔ18Oに差はみられないため,マツは光合成能力が低い可能性が考えられる.また400m,800mのゴヨウマツ,クロマツの青い葉と黄変した葉(汚染物質の影響を受けたと考えられる)で,δ13C,Δ18Oに差はみられないことから,青い葉と黄変した葉に水利用効率や蒸散特性に差はないことがわかった.大量の大気汚染物質が確認される冬季に成長が遅いことが関係していると考えられる.


日本生態学会