| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-265J (Poster presentation)

GISを用いたイノシシ被害対策の可視化と効果検証

高橋俊守(宇都宮大・里山科学セ)

栃木県芳賀郡茂木町は、八溝山地を貫流する那珂川中流部に位置している。年間の平均気温は約13.7度、年間降水量は約942mmである。町の面積は約172.7km2で、南北に約27km、東西に約12kmの広がりを有する。土地利用面積の比率では、山林が最も広く約7割を占める典型的な中山間地域で、耕作地は畑と田がそれぞれ約7.5%、約7.0%を占めている。

茂木町の鳥獣害はイノシシによるものがほとんどで、その被害金額は2007年のピーク時には4,000万円を超え、近年増加傾向が顕著である。2006年以降は、中山間地域等直接支払制度推進協議会を通じて86集落と協定を締結するなど、各種の補助金を用いて集落単位での電気柵導入や刈払いによる環境整備を進めている。また、狩猟及び有害鳥獣駆除による捕獲についても毎年100頭前後実施している。

町によると2009年の被害金額は約900万円で、その内訳はイモ類が最も多く、野菜類、水稲、工芸作物、果樹が続いている。一方で被害面積は約818haで、水稲が大半で441haを占め、イモ類、工芸作物、野菜類、飼料作物が続いている。各種の被害対策を実施後、ピーク時と比較して被害金額や被害面積は減少しているが、被害の発生にはイノシシの生態的な要因に加えて、人間による営農活動や共同管理といった社会的な要因が複雑に関係しており、その背景を科学的に説明することは容易ではない。

町では、イノシシによる被害と防護や捕獲に関する対策の一環として、2006年からGISを用いた情報の整備を進めている。これらの情報は、被害履歴に関する行政資料をはじめ、住民説明会や対策時の合意形成ツールとして利用されている他、被害発生の背景を分析するための基礎情報として研究利用されている。本研究では、イノシシ被害対策の実態や研究を通じて得られた対策効果に関する知見をGISを用いて可視化することを通じて、地域課題を社会生態的視点から考察する。


日本生態学会