| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T02-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

希少種のハビタット、湧水湿地のネットワークを地域資源としてとらえる

富田啓介(名大)

生態系ネットワークの保全・再生にとって、地域住民の当該生態系への関心やポジティブな関与は重要な要素である。したがって、保全・再生対象となる生態系について自然科学的な知見を得ることと同時に、その生態系の地域社会にとっての意味についても十分な検討が必要である。本報告では、希少種のハビタットである湧水湿地を地域資源(地域を特徴づける社会的に利用可能な資源)としてとらえたとき、その社会的位置づけや利用に関わる課題について、生態系ネットワークの保全と関連づけながら考察する。

湧水湿地は、貧栄養の湧水が地表を湿潤化することによって形成された、泥炭の蓄積に乏しい小面積の湿地の総称である。西日本の丘陵地に多く、地域固有種や湿原性希少生物種のハビタットとして重要である。愛知県では、湧水湿地やその生物群集のいくつかが社会的に認知され、天然記念物等として保全されている。このような湧水湿地は、保全の担い手となる市民が活動を行う場、環境教育の場、散策コース、観光スポット等として利用されている。このように、社会的に認知された湧水湿地は、生物多様性や生態系保全上の意義だけでなく、社会的な意義も潜在的には大きい。

しかしながら、今のところ地域社会の湧水湿地への関心は限定的で、保全・再生のための十分な原動力になっていない。また、持続的利用の観点からは次のような課題もある。湧水湿地をハビタットとする生物種の多くは、複数の湧水湿地を局所集団とするメタ個体群として存続しているが、社会的に認知された湧水湿地はその一部にすぎない。複数の湧水湿地をネットワークとして保全・再生する仕組みと、利用者や保全の担い手が十分にその意義を理解するための機会を作ることが必要である。


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