| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T03-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

わが国における半自然草地の減少とその要因

楠本良延(農業環境技術研究所)

日本は世界でも有数の森林国である。国土の約7割が森林で覆われ、今日でもその割合は増加しているとされる。しかし、このような高率の森林は歴史的に維持されてきたものでは無く、かつては非常に広大な半自然草地が水田農業と結びつく形で国土を覆っていたことが知られるようになってきた。古島(1955)は、明治初年に当時の山林局長が山林面積が全国土の2割9分にしか過ぎぬと指摘したことをあげ、幕末期の林野は「連々として続く草山でしめられていたことは疑う余地がない」としている。山地が7割を占める国土の地形条件から考えれば、幕末期には国土の4割程度が草山で占められていたとも言える。この草山は「肥料飼料の採取と放牧地として、農民の手で管理使用」された「半自然草地」であった(古島,1955)とされる。特に、刈敷農業の基盤としての林野利用は、その共同体的な方式によって水田農業の基盤をなしていたともされる(近藤,1959)。ところが今日、草地面積の面積は「日本の国土の1%にも満たない(小椋,2006)」とされる。そこで本報告では、明治期以降の社会変動、特に、刈敷農業から金肥を用いた農業へ、入会林野から地主制の土地所有へ、役畜利用から農業機械利用へという農業・農村の近代化やエネルギー革命の過程に着目しつつ、半自然草地の減少とその要因を概観する。その上で、半自然草地の減少、すなわち森林化がもたらした農村ランドスケープの変化と、その変化が我が国の農村地域における生物多様性に及ぼした影響を、植生構造の変化と、草原性動植物の激減という視点から検討する。


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