| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

現在の非農業活動により維持される半自然草地の現状

澤田佳宏(兵庫県立大学)

半自然草原の成立する立地として,採草地や畦畔草原などの農用地がよく知られている.しかし,農業活動と関連のない場所でも刈り取り等によって草原が維持される場があり,それらの中には,保全すべき半自然草原が含まれている場合がある.このため,様々な非農用地で草原の種組成を把握するとともに,草原の成立と維持に関わる自然的・社会的条件を踏まえて今後の動向を予測する必要がある.草原が維持される非農用地の例として,スキー場,ゴルフ場,墓地,道路法面,河川堤防法面,自衛隊演習場などが挙げられる.ここでは,スキー場と墓地に関する研究事例を報告する.

スキー場では,滑走斜面を維持するために刈り取りや火入れが定期的に行われる.兵庫県北部の複数のスキー場で調査をおこなったところ,一部のスキー場でキキョウ・スズサイコ・オケラなどの多様な草原生植物を含むススキ草原が確認された.このススキ草原は,かつて採草地であったスキー場にみられることから,採草地の草原のなごりと考えられる.ただし,採草地由来のスキー場でも,重機による地形改変を受けた場所には外来牧草群落が成立するなど,ススキ草原は減少している.

農村に点在している伝統的な墓地では,美観を維持するために年に数回の草刈りが行われるものが多い.淡路島北部の農村地帯の伝統的墓地を調べたところ,その多くで,アキノキリンソウ・アキノタムラソウ・カワラマツバ・ツリガネニンジンなどの草原生植物を含むチガヤ草原(未整備畦畔と同様の植生)が確認された.この地域では,墓地は圃場基盤整備や道路整備の際に造成を免れる傾向がある.圃場基盤整備によって畦畔草原が変質していく中で,伝統的墓地には草原保全機能があると考えられる.

これらの事例をもとに,非農業活動により維持される半自然草原の現状を整理し,保全上の課題について考察した.


日本生態学会