| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

アジアスケールでみた農業景観のモザイク性:生物多様性の観点から

大久保 悟 (東京大学・院・農)

農業生態系におけるモザイク景観が,高い生物多様性を維持していることが広く知られるようになってきた。そのメカニズムは大きく3つ考えられており,(1) 異なる生息地の複合体が地域全体の多様性(ベータ多様性)を高める効果,(2) 農耕地に点在・線在する樹林地や農耕地周辺の半自然的草地などが生態的な代償地となり,地域の生物多様性を向上させる効果(ecological compensation),(3) 複数の生息地タイプを生活史の中で利用する生物種群にとって,複数の生息地が隣接するモザイク景観が特異な生息地環境を提供する効果(landscape complementation)が知られている。ただし,こうした農業モザイク景観の重要性は温帯域を中心に得られた知見であり,熱帯域で同様のメカニズムが存在するのか検討が必要である。とくに東南アジアをみた場合,人間活動の歴史が浅い地域が多いため,比較的新しく形成されたモザイク景観に生息地を拡大した種群に限りがあると想定される。また,最終氷期の古植生を復元した研究成果によると,ジャワ島を含むスンダ陸棚を除く東南アジア半島・島嶼部では,最終氷期でも熱帯雨林や熱帯季節林が成立していたことが知られており,第四紀の気候変動による植生変化は小さかったため,東南アジアの熱帯域で農業モザイク景観が固有かつ高い生物多様性を維持する状況は普遍的でないといえる。ただし,ジャワ島や大陸アジアのように第四紀の気候変動の影響を受け,多様な土壌条件(乾湿条件)が存在し,かつ,人間活動の影響が比較的長い地域については,温帯域にみられるように,モザイク景観が固有かつ高い生物多様性を維持している可能性があると想定できる。この発表では,地形条件のヘテロ性と過去数十年の土地利用/被覆からみるモザイク性とその変化の関係から,生物多様性上潜在的に重要な農業モザイク景観をアジアスケールで抽出する手法論の紹介と,一部成果を報告する。


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