| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T09-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

広葉樹林に隣接するトドマツ人工林での種子散布

今博計,明石信廣,南野一博(道総研・林業試)

近年,針葉樹人工林内に更新した広葉樹を育成し,混交林へ誘導する施業法が検討されている。広葉樹の天然更新には林内の光環境など様々な要因が影響するが,なかでも種子の供給は,更新材料が失われた人工林では,更新の成否に関わる重要な要因である。本研究では,広葉樹二次林とこれに隣接したトドマツ人工林において,広葉樹の種子散布および当年生実生の分布を調べ,母樹からの距離が与える影響について検討した。

風散布型と鳥被食散布型の種子散布を評価するため,調査地内に5列20基の種子トラップを10m間隔で設置した(広葉樹林内39個,人工林内61個)。アサダ,イタヤカエデ,ヤマモミジ,シラカンバなど風散布型の種子は,母樹からの距離に依存して散布数が減少した。長距離散布されるシラカンバを除くと,トドマツ人工林内に散布される種子数は極めて少なく,総種子数の4%程度であった。それに対して,鳥被食散布型のミズキは,母樹からの距離依存的な散布数の減少が低く,人工林内へも18%の種子が散布されていた。一方,貯食散布型の種子散布を評価するため,トドマツ人工林内でQuercus spp.(ミズナラ,カシワ)の当年生実生の分布を調査した。その結果,当年生実生の分布は林縁からの距離に依存する傾向がなく,林床植生がほとんどない場所に集中分布していることがわかった。本研究では,散布者の行動を調査していないが,この結果はミヤマカケスなどがミズナラ・カシワ種子を人工林内に広く分散貯蔵していることを示していた。したがって,人工林内への種子散布数は,散布型によって大きく異なること,散布者の行動に強い影響を受けていることが明らかになった。


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