| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T09-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

スギ人工林とそれに隣接する落葉広葉樹林における実生の菌根タイプと感染率の違い

九石太樹(東北大・農),深澤遊,清和研二(東北大・院農)

日本では戦後に広葉樹の伐採と針葉樹の植林が活発に行われ、森林面積の40%が単一の針葉樹からなる多様性の低い森林になっている。現在ではこのような針葉樹林に広葉樹を導入して多様性を回復させる、針葉樹林の針広混交林化の動きがある。針葉樹林の針広混交林への移行には、天然更新が非常に重要である。そのなかでもとくに実生更新は土壌の菌根菌相の影響を受ける。Hortonら(1999)は外生菌根(ECM)性のダグラスモミはECM性のArctostaphylos(ツツジ科植物)が優占する林分では定着するが、アーバスキュラー菌根(AM)性のAdenostoma(バラ科植物)が優占する林分では定着しないことを見出した。同様の現象がスギ林でも生じるならば、針広混交林への移行は優占種であるスギと共生する菌根菌の影響を受けると考えられる。

そこで優占樹種の菌根タイプの違いが、実生の菌根形成率に影響を及ぼすかを調べた。スギ(AMタイプ)が優占するスギ人工林と、これに隣接するコナラ(ECMタイプ)が優占する落葉広葉樹林からそれぞれミズキ(AM)とコナラの実生をサンプリングし、その菌根の観察を行った。その結果、ミズキのAM菌根形成率はスギ林でコナラ林より有意に高く、コナラのECM菌根形成率はコナラ林でスギ林より有意に高かった。またどちらの林分でもミズキはECM菌根をほとんど形成せず、コナラはAM菌根をほとんど形成しなかった。この結果から、実生の菌根形成は優占樹種と共生する菌根菌によって促進されるということが示唆された。

さらに、強度間伐を行ったスギ人工林に出現した広葉樹実生の生存率が実生の菌根タイプで異なるかを調べた。その結果スギ人工林における実生の生存率はAMタイプの樹種で高く、ECMタイプの樹種で低かった。

本研究の結果は、スギ人工林に侵入種の実生が定着する際、スギと同じ菌根タイプを形成するAM種がECM種に比べて有利であるということを強く示唆した。


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