| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T10-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

森林生態系保全のための意思決定支援~県域スケールでのシカ被害評価を例に~

藤木大介(兵庫県立大学)

近年、過密度化したニホンジカが引き起こす森林生態系被害は全国的に深刻化しており、都道府県行政においても森林生態系保全のための何らかの措置を講ずる必要性が増してきている。シカによる農業被害対策については多くの都道府県において様々な対策が講ずられている一方、森林生態系被害については十分な対策が取られていないのが現状と言える。この理由の一つとして、山積する行政課題の中でシカによる森林生態系保全対策を優先的に実施する必要性を示す根拠資料(科学的データ)が十分提示されていないことが挙げられよう。

このような状況の中、発表者は兵庫県の野生動物管理の専門的研究機関の研究員の立場から、シカによる森林生態系被害のモニタリング体制の構築に取り組んできた。その過程で感じたことの一つとして、被害対策のスターターとして、被害量の定量的かつ全体的把握がまず不可欠であることが挙げられる。一方で、予算・労力・人的ソースで一定の制限を受ける都道府県レベルでは緻密な生態学的調査を広域スケールで実施することは困難なことから、モニタリングで実施される調査手法は大胆な簡素化が求められる。したがって、モニタリング計画の立案者は、調査の大胆な簡略化と最低限のデータ精度の確保というバランスを如何に達成するかが重要になる。また、講演では、被害対策を進める上で、森林生態系被害に関する地域住民の関心はどこにあるのかを理解しておくことの重要性を指摘したい。最後に課題として、森林生態系機能の低下を簡易なモニタリング・データで示すだけでは、地域住民に対して具体的にどのような悪影響が生活上生じるのか明確に答えることが難しい。この辺りのギャップを埋める努力が今後必要だろう。


日本生態学会