| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T16-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

オーストラリア産針葉樹の分布拡大は生態ニッチシフトを伴ったのか

*阪口翔太(京大・院・農)

Callitris columellaris複合種はオーストラリア大陸の大部分の地域に分布するヒノキ科針葉樹であり,生態学・形態学的に多様化を遂げたグループとして知られている.その分布は熱帯モンスーン地域から,年間降水量が300mmを下回る内陸の乾燥地域にまで至るものの,地域集団は地理的に大きく分断されている.本研究では,Callitris columellaris複合種の分断分布パターンがどのように形成されてきたのかを,分子系統データに基づいて明らかにするのと同時に,地域集団間での生態ニッチの分化を推定することで,過去の分布拡大過程とニッチ分化の関連を明らかにすることを目的とした.核及び葉緑体遺伝マーカーから推定された遺伝構造はよく一致しており,大陸南西部・中央部から,東部の山地帯,北部のヨーク半島,ノーザンテリトリーの集団にかけて,環状の遺伝的な結びつきが示された.北部の熱帯モンスーン地域の集団は,それ以外の地域集団に比べて一様に低い遺伝的多様性を示したことから,過去にボトルネックを経験したと考えられたが,生態ニッチモデルの予測では第四紀後期の気候変動は地域集団の分布適地を大きく変化させなかった.その一方,北部の地域集団とそれ以外の集団間では,気候要因で規定される生態ニッチに大きな分化が検出された.これらの結果から,Callitris columellaris複合種は半乾燥気候を祖先的な生態ニッチとし,大陸南部ではそのニッチ状態を維持したまま地域集団が遺伝的に分化していったと考えられる.それに対して,大陸東部の集団は,大陸内陸の砂漠地域を避けるようにして,北部の熱帯モンスーン地域へと分布を拡大させたと考えられる.低下した集団の遺伝的多様性は,このときの集団ボトルネック効果を反映しているのかもしれない.


日本生態学会