| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T20-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
森林は温度・降水量の適した範囲で発達する。温暖湿潤な気候帯の森林では、気候変動に対する樹木の応答が明瞭でないとされている。一方、高山帯・亜高山帯に位置する森林生態系は、短い生育期間・低温・積雪・乾燥・風圧などにより厳しい生育環境下にあるため、樹木は気候変動に対して敏感に反応すると予測されている。
近年の気候変動に対する森林生態系の応答を予測するため、過去の気候変動と年輪幅の変化から、樹木成長の規定要因を探る研究が進んでいる。阿寒山系雄阿寒岳のアカエゾマツを対象にした先行研究では、年輪幅に対して当年夏季気温が負の効果をもち、また、森林限界に近い個体群でその効果が大きいことが明らかになった。これらの結果は、高い夏季気温は樹木成長を促進することなく、生理的乾燥を引き起こして成長を抑制し、また森林限界が下降する可能性を示唆する。
本研究では、高い夏季気温による生理的乾燥が樹木成長を抑制するという仮説を検証することを目的とした。雄阿寒岳と大雪山系西クマネシリ岳において標高に沿ってアカエゾマツ年輪コアを採取し、材中の炭素安定同位体比(δ13C)と年輪幅および気温・降水量との関係を調べた。肥大成長量が小さい場合、また肥大成長量が大きい場合に、同位体比は高い値を示した。この結果から、同位体比は高い光合成速度と乾燥による気孔閉鎖という異なる二つの生理的応答を反映することが明らかになった。乾燥による肥大成長の抑制は高標高において見られたが、気象要因との明瞭な関係は検出されなかった。気象変動と樹木成長との関係を抽出するにはより長期的データの解析が必要である。