| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T20-6 (Lecture in Symposium/Workshop)
山岳生態系は気候変動の影響を検出・予測する上で優れたセンサー機能を持っている。その特徴は、温暖化の影響が特に深刻とされる寒冷適応生物の生息地であることと、緯度方向の移動に比べて急激な温度変化をもたらす標高という環境傾度の存在である。本発表では、第1の話題として、代表的な寒冷適応生物である周北極植物種の遺伝的多様性が、分布南限である日本の高山において、どの程度失われており、集団間の遺伝的分化がどの程度生じているかを明らかにする。一方、日本のみに固有に分布する高山植物種の中には、低地性の植物種から分化したと考えられる「低山要素」のものがかなり含まれるが、その分化プロセスはわかっていない。これと関連して、広い標高域に分布する山岳植物の中には低地集団と形態の異なる「高地型」として認識されているものが少なからずあり、上記の「低山由来の高山植物」の分化との関係が注目される。そこで第2の話題として、高地型と低地型の間で遺伝子流動があるかどうか(遺伝的分化)、さらに、高地型と低地型の生殖隔離に関与する花形質が、標高によって異なる送粉者からの選択圧を受けることによって局所適応しているかどうか(生態的分化)について、それぞれ検討する。最後に第3の話題として、幅広い標高帯に分布するシロイヌナズナ近縁種の野生集団を材料として、適応遺伝子の同定を試みた研究成果を報告する。これらの3つの話題を提供することで、気候変動に対する生物の適応進化を理解・予測するための方向性を探りたい。