| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 |
宮地賞受賞記念講演 2
Experimental verification of the mysterious evolution of animal behavior using the adzuki bean beetle
Tomohiro Harano(Department of Biology, Faculty of Science, Kyushu University)
動物の行動の中には、なぜ進化したのかが不可解に思われるものがある。そのような行動は、進化 生態学あるいは行動生態学の研究および議論の的となる。とりわけ多くの注目を集めるのは、多くの 動物で普遍的に見られるのにその適応的意義が一見理解できないという行動である。その1 つに、メ スの多回交尾がある。多くの動物では、オスもメスも多回交尾を行い、複数の交配相手を持つ。一般 的に、オスの残す子の数は交配相手が増えるにつれて増加するので、オスでは多回交尾の適応度上の 利益は明快に理解できる。それに対して、メスの適応度は、自分の生産する卵の数によって決定され るので、交配相手が多くなっても増加しないと考えられる。それゆえ、なぜメスの多回交尾が進化し たのかは、単純には説明できない疑問である。
演者は、アズキゾウムシを材料として、メスの多回交尾の進化にまつわる問題の実験的検証に取り 組んできた。本種は実験室で累代飼育しやすく、さまざまな形質の定量化が容易である。はじめに、 メスの多回交尾しやすさの遺伝的変異が存在することを明らかにした。遺伝的変異は、生物の形質が 進化するために不可欠である。メスの多回交尾の進化に取り組んだ研究は数多いものの、その遺伝的 変異はほとんど研究されていなかった。さらに人為選択実験を行うことによって、メスの多回交尾が 選択に反応して進化することを観測できた。この人為選択系統を用いて、雌雄間の遺伝相関を通して メスの多回交尾が進化するという仮説を検証し、否定する証拠を得た。メスの多回交尾の進化を説明 する有力な仮説は、精子の補充やオスからの栄養物質の受け取りを通して多回交尾がメス自身の適応 度を増加させるというものである。この仮説の検証は、多くの昆虫種でなされている。演者らは、多 くの研究で採用されている検証方法が問題を孕むことを明らかにした。そして、それを解決する手法 を考案し、本種のメス自身の適応度に対する多回交尾の影響を評価した。
遺伝的変異の存在と適応度に対する影響の両方が、生物の形質の適応進化が起こるための必要条件 である。演者は、なぜメスが多回交尾を行うのかという疑問に対して、適応進化の必要条件の両方を 検証する研究を展開している。それにより得られた知見を概説したい。