| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 |
大島賞受賞記念講演 1
森林は陸上で最も地上部構造が発達する生態系である.森林生態系では一次生産者である樹木が最 大の生物であり,生態系構造を作り出す構築者(ecosystem engineer)である.樹木の光合成が生態系の 純一次生産量を規定し,多くの生物は樹木が提供する様々な構造を住み場所として利用している.し たがって,森林の空間構造が発達するほど,多様な生物が住む,豊かな生態系になる.
樹木は光合成に必要な光エネルギーを得るために,樹高成長を行うが,すべての樹木は,最初は数 センチの小さな実生であり,稚樹・幼樹・若木・成木といった成長段階を経て1,000 ~ 10,000 倍の大 きさにまで成長する.成熟した森林は成長段階や最大樹高,耐陰性の異なる様々な樹木個体によって 構成されており,葉も林床から梢まで広い範囲に分布している.葉の垂直分布は群落内における光エ ネルギーの垂直分布を規定するため,樹木の構造(枝・葉の分布)と機能(光合成)はフィードバッ ク関係にある。よって,葉の形態・生理的可塑性が高く,垂直構造が発達した森林ほど葉面積,生産量, 現存量が多くなる.
定性的な観察から,森林では高木層,亜高木層,低木層といった樹木の成層構造(stratification)が 存在するとされてきたが,これは便宜上の分類であって,実際の垂直分布は連続的で,明確な層に分 かれているわけではない。たとえば,北海道の冷温帯林では樹種ごとに葉の垂直分布に固有のピーク が見られるが,森林全体では葉や樹高の垂直分布は連続的で,明瞭な成層構造はみられない。一方, 屋久島の針広混交林では針葉樹のほうが広葉樹よりも最大樹高が高く,成熟した森林では両者の垂直分布が明瞭に分かれているのが特徴である。
森林の垂直構造が発達すると,光合成における直達光・散乱光の利用様式や季節性・日変化パターンの異なる 様々な樹種が存在するようになり,時間・空間的に光エネルギーを相補的に利用するようになると考えられる。多数の樹種が同所的に生育し,相補的に資源を利用するようになると,生態系全体の資源利用効率が高まると考えられている。したがって光利用様式の異なる様々な樹種が存在し,複雑な垂直構造を持つ森林ほど生産性が高くなることが予想される。
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