| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-15 (Oral presentation)

極東域は淡水動物プランクトンの生物多様性のホットスポットなのか? 全球規模のゾウミジンコの系統地理から探る極東域の氷期退避地仮説

*石田聖二(東北大・生命), Derek J. Taylor (SUNY at Buffalo), Alexey A. Kotov (ロシア科学アカデミー)

約10万年周期の氷河期サイクルが北半球の生物相に劇的な撹乱をもたらした。しかし氷床は東アジアに広がらなかったため、極東域は比較的に温暖湿潤な環境を維持してきたと考えられる。北半球の温帯から寒帯にかけて広く分布するミジンコ種Daphnia rosea sensu lato (i.e., Daphnia dentifera)の全球規模の系統地理学から、日本には多様な遺伝系統がのこされ、日本の個体群間では明瞭な地理的構造があることが明らかになった(Ishida and Taylor 2007)。極東域のそれぞれの地域が氷期退避地として多様な系統が分化し、遺伝的多様性を創出する場として機能している可能性がある。そこで、全球の温帯から寒帯にかけて広く分布する別のミジンコ種Bosmina longirostrisについても同様に全球規模でサンプリングを行い、系統地理のアプローチで遺伝解析をした。本種は8つのミトコンドリア遺伝子の系統群を構成することが分かった。日本には5つの系統群が存在し、そのうち1つは日本に固有な系統で、1つは日本とサハリンに固有な系統、2つは日本とシベリアに固有な系統、残りの1つは北米からシベリア・ヨーロッパにかけて広く分布する系統であった。日本を含む極東域に固有な系統が多いことから、極東域の氷期退避地仮説を支持し、極東域の湖沼が氷河期サイクルを通じて多様な淡水動物プランクトンの系統を維持してきたことを示唆した。


日本生態学会