| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-23 (Oral presentation)

サラシナショウマの種内3型の遺伝的分化と交雑

*楠目晴花(信州大院・工・生物),市野隆雄(信州大・生物)

サラシナショウマは生態的な特徴(分布標高,花期,花の香りなど)からTypeI,TypeII,TypeIIIの3つのタイプに分けられる(Pellmyr 1986).TypeIは高標高に生育する大型のタイプで,マルハナバチ類などを主な送粉者としており,8月半ばから9月半ばまで開花する.TypeIIは中標高以下の林縁に生育する大型のタイプで,花は強い芳香を放ちチョウ類を送粉者としている.8月の終わりから9月まで花を咲かせる.TypeIIIは低〜中標高の暗い林床に生育する小型のタイプで,ハエ類やマルハナバチ類を送粉者としており,9月の半ばから10月半ばまで開花する.生殖隔離をもたらすようなこれらの形質における差異はタイプごとの遺伝的分化を示唆する.一方で,Yamaji et al.(2005)は核リボソームDNAのITS領域の配列から,全国のサラシナショウマを地理的なまとまりのある7つの遺伝子型に区別した.しかし,送粉型と遺伝子型の関連性は明らかになっていなかった.また,垂直方向の送粉型の分化と水平方向の遺伝子型の分化の関連性や送粉型間の生殖隔離についても検証されていない.

そこで本研究では,核リボソームDNAのITS領域に基づいたリボタイピングから送粉型と遺伝子型との対応関係を明らかにした.さらに,AFLP解析によってサラシナショウマの送粉型間の遺伝的分化と交雑の有無を検証した.その結果,3送粉型はYamaji et al.(2005)の7つの遺伝子型のうちの3つと1対1で一致した.また,AFLP解析によっても3送粉型が遺伝的に分化していることがわかった.一方,TypeIとTypeIII,TypeIIとTypeIIIの間には交雑個体がわずかながら確認されたことから,これらの間の生殖的な隔離は不完全であることが示唆された.


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