| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-25 (Oral presentation)

東日本の細胞性粘菌の観察スケールにより異なる群集動態

足立隼(徳島大・ヘルスバイオサイエンス)

個体群と種とは生態学における基本概念であるが、その区別は未だ曖昧である。個体群動態と種の動態の違いを解析するため、伊豆半島部から本州にかけての領域と北海道における野外の細胞性粘菌をモデル群集として調査した。その結果、細胞性粘菌個体数の7割程度はPolysphondylium pallidum, Dictyostelium purpureum, P. violaceumという3種の汎存種が占めた。冬場は細胞性粘菌の個体数は少なかったが、夏場はP. pallidumが極相種となり冬場の10倍程度の個体数を示す一方、春や秋はD. purpureum, P. violaceumその他の少数種の割合が高くなった。主成分分析により発生が遅く夏場の極相種と思われるP. pallidumと発生が早く先駆種と思われるD. purpureum/P. violaceumの間ではニッチの分化が見られた。

各個体群を個体数によりランク付けしたメタ群集の分布はHubbellの中立説とよく合致した。細胞性粘菌のメタ群集の空間的スケールは 10 m四方以下の土壌で観察された。ところが18S rDNA配列による遺伝学的な各種を個体数によりランク付けした分布は中立説と合致せず、中立的な個体群と適応的な種の動態には別々の選択が働いたことが示唆された。またITSの解析により、調査された領域では北海道から伊豆半島の付け根にまで至る群集と、南伊豆の群集に区別された。南伊豆の細胞性粘菌は遺伝的には別種程度の隔たりがあり、高温耐性を示した。以上の結果は、南伊豆の群集は過去に島であったことを反映した地理的隔離による種分化の途上にあり、個体群動態と種動態の違いを解析できる興味深いフィールドであることを示唆している。中立説がよく当てはまるとされている被子植物の種は実際には個体群のプロットになっている可能性が考えられた。


日本生態学会