| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-17 (Oral presentation)

観測誤差を考慮した推移確率行列の新しい推定方法と実データへの適用

*深谷肇一(北大院地球環境),J.A.Royle(USGS),奥田武弘(NRIFSF),仲岡雅裕(北大院FSC厚岸臨海),野田隆史(北大院地球環境)

群集動態を表す方法の一つは、各種の相対頻度の変化を推移確率行列によって表すことである。推移確率行列は永久方形区に設置された多数の固定調査点において種の入れ替わりの頻度を測ることで得られるため、主に固着性生物群集を対象に実データからの推定が行われてきた。しかし推移確率の推定値は、観察の度に同一の場所が正確に再測定されないという観測誤差があるとバイアスが生じることが知られている。本研究では、複数状態動的占有モデルの枠組みを用いた、固定調査点の継続調査に基づく推移確率行列の新しい推定方法(統計モデル)を提案する。モデルでは各調査点における種の占有状態とその推移という生態学的過程と観測過程が明示的に考慮され、パラメータとして推移確率行列、観測誤差率、種の占有状態や観測誤差の有無が推定される。シミュレーションを用いた試験の結果、この方法では観測誤差がある場合でも推移確率の推定バイアスはほとんどないことが明らかとなった。

さらに、観測誤差が推移確率の推定とそれに基づく群集動態の予測に及ぼす影響を明らかにするため、本研究で提案する推定方法と従来の推定方法を北海道東部太平洋沿岸の25サイトで10年間得られた岩礁潮間帯の固着性生物群集データに適用し、結果を比較した。その結果、本研究の方法を用いた場合、従来の方法を用いた場合と比べて種の存続確率が高く推定される傾向があり、その結果、群集の回転率や撹乱からの回復速度が低く評価されることが明らかとなった。このことから、実データによる推移確率行列の推定において観測誤差の無視は誤った結論につながる可能性があり、複数状態動的占有モデルの枠組みを用いることでより正確な推論が期待されることが示唆される。


日本生態学会