| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-21 (Oral presentation)

36年ぶりに巣立ったトキの生態

永田尚志*・中津弘(新潟大・CTER)

トキの再導入を目指して2008年秋に放鳥されてから5年目の2012年に放鳥トキの3つがいが8羽の雛を巣立たせた。佐渡島の野生下で幼鳥が巣立ったのは38年ぶりであった。野生絶滅前の佐渡島では研究者も含めた人の入山が規制されていてトキの生態は断片的にしかわかっていなかった。今回は、3巣の雛の観察からわかった繁殖生態の断面を報告する。2012年の24営巣うち、3巣でヒナが孵化して8羽の幼鳥が巣立った。ヒナの孵化後29〜35日までは雌雄いずれかが巣に残り、ヒナが小さいうちは抱雛し、大きくなってからは傍の枝で見守っていた。ヒナの餌要求量が増加する巣立ちまでの8〜15日間は両親とも巣から離れて採餌に出かけるようになった。親は、巣に戻った直後と滞巣中に複数回の給餌を行うが、吐き戻しで給餌を行うため、実際の給餌量はわからない。育雛期間中に両親が採餌している餌種は、ヒナが小さいうちは小型の餌が多い傾向がみられ、成長速度が最大となる16〜18日齡以降にドジョウなどの大型の餌の採餌が多くなる傾向はみられたが、季節の進行に応じてドジョウ、カエルからミミズ、昆虫類へと餌生物も変わっている。巣立ちビナは、地面をつついて採餌行動をするものの、巣立ち後2週間はほとんど自力で餌を取れずに親からの給餌に依存していた。巣立ち後、2〜4週の期間には両親の半分ほどの効率でミミズや昆虫を採餌ができるようになるが、両親に餌乞いを行い、たまに給餌されていた。この時期に給餌を行うのは雄の場合が多く、雌は幼鳥からの餌乞いを拒否することが多かった。巣立ち後4週間を過ぎた幼鳥は、成長の7〜8割程度の効率で採餌が可能になった。2012年現在、雌あたりの繁殖成功度は19%(3♀/16♀)に過ぎず、中国野生個体群(卵あたり67%)には届かない。再導入個体群を確立するためには、繁殖成功度の改善が必要となる。


日本生態学会