| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C3-29 (Oral presentation)

個体群の単位を探る:遺伝的均一性と個体数同調性の関係

小泉逸郎(北大・創成)

“個体群”とは“ある地域における生物個体の集まり”と定義されており、生態学上最も重要な基礎単位である。例えば、生存率、成長率、絶滅率などの主要パラメーターは個体群をベースとしており、また集団遺伝学的には個体群(任意交配集団)とは進化の最小単位と考えられている。しかしながら、実際の生物は複数の生息地間を移動しているため、個体群の境界が明瞭でなく個体群動態や局所適応をどのスケールで扱えばよいのか確立した基準がない。個体群の実体を理解するためには、多数の地域で個体数変動や生活史変異を調べ、さらにそれらが個体の移住によってどのように影響されているかを調べる必要がある。本研究では、北海道空知川のオショロコマ(河川性サケ科魚類)を対象に申請者が過去15年にわたり採集してきたデータを解析する。

30支流個体群を対象としたマイクロサテライトDNA解析の結果、明瞭な“距離による隔離”の効果がみられ、5-10km離れた個体群間では有意な遺伝的分化が認められた(FST=0.02程度)。逆にいえば5km以内のスケールでは個別の支流に生息していても遺伝的には均一な個体群といえる。次に、支流間で個体群動態(デモグラフィー)がどれほど一致しているか、また距離の効果が認められるか、について18個体群における6-15年のデータを解析した。結果、距離の効果は認められず20-30kmにわたって弱い同調性(r = 0.2-0.3)を示した。移住が多く遺伝的分化が認められない近接個体群間でも、個体数変動の同調性は引き起こされておらず、各支流個体群が独自のデモグラフィーを持っていた。また、産卵時期などの生活史形質も個体群間で異なったが明瞭な地理的グループは認められなかった。以上から、現実の個体群は非常に複雑であり、注目する特性により個体群の単位は異なると考えられた。


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