| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G2-13 (Oral presentation)
同種集団の地理的変異は、現在受けている淘汰を反映している。中でも、近縁な2種が異所的な地域よりも同所的な地域でより大きな形態差を示すことを形質置換あるいは形質解放という。前者は2種が共存することで形質差が大きくなり、後者は単独分布することで形質差が小さくなる現象である。これらの地理的パターンは共存域での資源競争あるいは繁殖干渉から生じるが、形質解放の場合は単独分布域での環境要因も関係する。本研究では、九州で著しい大型化を示すオオオサムシ亜属の小型種ヒメオサムシを材料として、近縁種と餌に注目して、体サイズの地理的パターンが生じるプロセスの解明を試みた。まず、ヒメオサムシは大型の近縁種オオオサムシがいない地域でのみ大型化していた。また系統解析の結果、大型ヒメオサムシは小型ヒメオサムシから分化しており、大型化は形質解放と見なされる。次に、体サイズの異なるヒメオサムシとオオオサムシの繁殖干渉を観察した。その結果、ヒメオサムシの体サイズが大きくなるほど、オオオサムシとの交尾と精包形成が高頻度になった。近縁種共存域でヒメオサムシの体サイズが小型に維持されている原因は、オオオサムシとの繁殖干渉であると考えられる。さらに、幼虫の餌であるミミズの体サイズとその捕食成功を調査した。その結果、大型ヒメオサムシの分布域では、ミミズの体サイズが非常に大きかった。そして、幼虫の捕食成功率は、ミミズに対する幼虫の相対的体サイズの増加によって増加した。また成虫と1齢幼虫の体サイズには正の相関が見られた。そのため、単独分布域でヒメオサムシの体サイズが大型になる原因はミミズの大きい体サイズであり、大きい幼虫(卵)を産む大きい体サイズが適応的であると考えられる。以上のことから、ヒメオサムシの大型化は、繁殖干渉からの解放と大きい餌への適応によってもたらされたと推測された。