| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) G2-14 (Oral presentation)
生物は、外的刺激に応じて適切に形や行動、生理状態を変えることで、変動し続ける環境に対応している。このように同じ遺伝的背景から環境条件に応じて異なる表現型が生み出される現象は『表現型可塑性』と呼ばれ、多くの生物が示す性質として知られてきた。さらに、近年ではこの表現型可塑性が生物の多様な形質の進化に重要な役割を果たすと示唆され、注目を集めている。しかし、さまざまな生物種で表現型可塑性の生理制御機構が明らかになる一方、「表現型可塑性の獲得や喪失が、そもそもどのような遺伝的変化によって進化するのか」という根本的な問題は全く明らかにされていない。そこで、本研究では、近年進化学のモデル生物として注目されているイトヨGasterosteus aculeatus の集団間における塩分変化応答性の違いに注目し、その差を担う分子生理機構と遺伝基盤の解明を試みた。祖先集団である海型イトヨは川と海とを回遊し、淡水から海水まで多様な塩分変化への対応能力を持つ一方で、河川や湖などの淡水域に進出した淡水型イトヨは淡水から海水への急激な塩分変化に対応できず、死に至る。マイクロアレイを用いた全トランスクリプト発現解析により、海水へ移行した際に見られる脳内の遺伝子発現変動を調べると、海型イトヨで発現レベルが上昇する一方、淡水型イトヨでは発現上昇しないホルモン関連遺伝子が複数個見つかった。これらの遺伝子は他の魚類で浸透圧調整に関与することが知られており、海型イトヨと淡水型イトヨの塩分変化応答性の違いに寄与していると示唆される。さらに、海型イトヨと淡水型イトヨのF1個体を用いて、同様に海水移行実験と候補遺伝子の発現変動解析、アリル特異的発現解析を行い、塩分変化応答性の違いに寄与する候補遺伝子の絞り込みと、その遺伝基盤の探索を行なっている。今後は、得られた候補ホルモンの投与による機能解析を行う予定である。