| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-15 (Oral presentation)

ブンブク類(ウニ綱)における捕食者との共進化とその適応放散

齋藤礼弥(神奈川大・院・理),金沢謙一(神奈川大・理)

ブンブク類は,一般に堆積物中でのみ生活するウニ類であるが,ヒラタブンブク類は特殊な腹側の形態を持ち,腹両側の長い棘により,堆積物表面への急速な脱出と堆積物への急速な埋没が可能である.水槽実験では,堆積物中に潜っているヒラタブンブクに対して,水流を起こして堆積物表面の砂を少しずつ洗い飛ばすと,ウニは腹側の大きな棘を駆使して,それよりも速く潜ることで洗い出しを防ぐ.実際に石川県能登島では,ヒラタブンブクが,嵐により堆積物表面が撹乱を受ける中,堆積物に深く潜り洗い出しを避けており,冬に海底撹乱が頻繁に起こる隠岐諸島の海域では,冬の時期を経てもウニの個体数が減少しない事が観察された.この腹側の特殊な形態を持つヒラタブンブク類は,始新世に出現し,それはウニ類を捕食する巻貝トウカムリ類の出現時期と一致する.ヒラタブンブク類とトウカムリ類は,現在は同所に生息しないが,中新世までは共に熱帯の浅海域に生息していたことが化石記録から分かっている.ヒラタブンブク類の特殊な形態は,対捕食者戦略として発達したと考えられる.実際に捕食実験を行ったところ,砂中のヒラタブンブクはトウカムリが接触すると,砂表面に脱出して逃げた.しかし脱出が成功したのは,10個体中1個体であった.体長の2倍程あるトウカムリの最初の攻撃で覆い被されると,ウニは逃げる事が出来ずに捕食された.しかし,始新世ではトウカムリ類とヒラタブンブク類はほぼ同サイズであり,その場合は逃げる機会があったと考えられる.しかし,中新世にはトウカムリ類は,ヒラタブンブク類の約3倍のサイズに達し,もはやこの戦略は通用しなくなったと思われる.一方で,対捕食者戦略として発達した腹側の特殊な形態により,ヒラタブンブク類は現在の様々な海底環境での生活に適応し,大繁栄している.


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