| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-019 (Poster presentation)

乗鞍岳,森林限界移行帯におけるオオシラビソ変形樹の形成過程

*前田久美子,丸田恵美子(東邦大理),澤田晴雄(東大愛知演習林)

北アルプス南端に位置する乗鞍岳の森林限界移行帯(標高約2450 m)はオオシラビソ(〈i〉Abies mariesii〈/i〉)から形成されるが、ここでは環境ストレスを受けて樹型が著しく変形している。乗鞍岳は日本海型気候で冬季の積雪が多く、4月初めの最深積雪は3~4 mほどになる。積雪に保護されている3 m以下の部位の幹は順調な成長を行えるが、樹高3 m以上に成長すると、冬季の強風や雪の沈降圧、強光ストレスなどにより枝・葉が損傷して変形する。そこで本研究ではオオシラビソの樹型を分類し、その形成過程と樹型が変形することの生態的意味を解明することを目的とする。

40 m×40 mの調査区内で、オオシラビソの毎木調査(樹型タイプ,樹高,胸高直径,樹齢,葉量)を行い、樹型タイプを若木(樹高2 m以下)・成木(樹高2 m以上)に分類した。さらに成木は積雪面より上の幹の本数と変形度合いによって5種類に分類した。成木のうち積雪面より上に幹を出している樹高3 m以上のものは、ほとんど幹が変形樹となっていた。そのうち旗型は積雪面より上に1本幹を持ち、幹の片側の枝葉を欠いているものとした。複数幹型は積雪面より上に複数の幹を持っているものと定義した。

オオシラビソは積雪面の高さに至るまでは変形化しないが、積雪面より上にでると幹は環境ストレスの影響が蓄積し、樹齢に伴って葉量が減少し劣化・枯死する。しかしそれを補うように積雪面付近の側芽が上方に成長し、主幹に代わって成長を始める。これが旗型から複数幹型への樹形形成の過程である。これらの若い幹は積雪面より上に形成されており、ほとんどの幹が球果を結実する。このことから、オオシラビソは球果をつける幹を確保するため、積雪面より上に幹をつくり、最初の幹が枯損しても、積雪面より上の幹を繰り返し再生させているということができる。


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