| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-021 (Poster presentation)

ブナの葉形・材質の地理的変異と気候条件・遺伝系統との関係

*伊藤圭佑(名大院・生命農),戸丸信弘(名大院・生命農)

自然集団における形態形質の変異は、過去の分布変遷や遺伝子流動、遺伝的浮動などによって生じる遺伝的変異を背景に、生育地の環境条件による自然選択や表現型の可塑性などの様々な要因が絡み合って形成される。日本に全国的に分布するブナは、遺伝的に日本海側と太平洋側で大きく分化しており、形態的にも多くの変異を持つことが過去の研究より明らかにされている。本研究では、日本全国のブナ集団を対象に、葉形と材質の変異の地理的傾向を明らかにし、SSR遺伝子型から推定された種内系統および生育地の気候条件と葉形・材質の変異との関係について検討することを目的とした。分布域を網羅する19集団188個体から落葉を計20150枚採取し、葉面積、葉形指数(葉身長/葉身幅)、円形度を測定した。また、そのうち12集団240個体からコアサンプルを1つずつ採取し、全乾密度、動的ヤング率、年平均肥大生長量(ARW)を測定した。解析の結果、葉形全てで緯度・経度に沿った変異がみられた。気候条件の影響を補正したパーシャルマンテル検定の結果、遺伝距離と葉面積に基づく距離には強い相関がみられ、系統関係を補正した系統独立比較(PIC)の結果、葉面積と日照時間には相関がみられた。葉の大きさは遺伝的に強く固定されているが、生育地の環境に応じて可塑的にも変異することが示唆された。一方、材質では全乾密度のみ経度に沿った変異がみられ、ヤング率とARWは明瞭な地理的傾向はみられなかった。パーシャルマンテル検定の結果、遺伝距離と全乾密度に基づく距離には相関がみられ、PICの結果、全乾密度と夏季の日照時間には強い相関がみられた。この結果は、全乾密度は遺伝的に弱く固定されているが、生育地の環境に対して大きく可塑的に変異することを示唆していると考えられる。


日本生態学会