| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-025 (Poster presentation)
気候変動の影響は高山環境で特に顕著で、温度環境や積雪量を変化させる。日本の高山帯で大きなバイオマスを占めるハイマツの分布は積雪環境との関連性が強く、その変化はハイマツの成長や分布の変化を引き起こし、他の植物にも影響を与えると考えられる。日本の高山植物群落は風衝地群落、ハイマツ群落、雪田群落に大別できる。風衝地群落と雪田群落の中間に位置するハイマツ群落は、気候変動への応答が風衝地側と雪田側で異なると考えられる。本研究は、風衝地と雪田に隣接したハイマツの伸長量成長に作用する環境要因の違いを特定し、航空写真に基づいたハイマツ帯の分布変化を明らかにする事を目的とした。
大雪山国立公園のヒサゴ沼周辺(風衝地側)と五色ヶ原(雪田側)で過去20年分のハイマツの伸長量を測定した。大雪山系では近年、雪解け時期の早期化やチシマザサの分布拡大が報告されている。ハイマツの伸長に関わる要因として、前年と当年の夏の平均気温、平均日照時間、雪解け日、春の平均気温、ハイマツ帯からの距離、パッチサイズ、方位を説明変数とした一般化線形混合モデルにより解析を行った。航空写真の解析は、1977年と2009年のカラー写真からハイマツを抽出し、32年間の分布域の変化を求めた。
航空写真の解析から、風衝地側(25ha)と雪田側(50ha)の双方でハイマツの植被面積は約14%増大していた。ハイマツの枝伸長は、雪田側では前年夏の気温が正に、パッチサイズが負に作用していた。一方、風衝地側では前年夏の気温・日照時間が正に作用していたが、当年春の気温が負に、ハイマツ帯からの距離が負に、パッチサイズが正に作用していた。どちらのハビタットも、雪の吹き溜まる東側で伸長量が大きいことが明らかとなった。夏の温暖気候は成長を促進するが、春先の温暖化は風衝地側で負の効果をもたらす原因として、耐寒性の早期消失の可能性が考えられる。