| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-027 (Poster presentation)
低地に比べ人間活動の直接的な影響が少ない高山帯は,地球温暖化等の気候変動の影響を検出しやすい場所である。この特性を活かし,気候変動が高山生態系にどのような影響をもたらすのかを評価するため,日本の高山帯で広く優占しているハイマツの生産力に着目した。本研究では,長期的なモニタリングを視野に入れ,非破壊的な測定が可能なリターフォール(植物体からの落下物:以下LF)量を調べ,リターフォール量の空間変異がどのような要因によって引き起されているのかを明らかにすることを目的とした。
本研究では,富山県立山山地の標高の異なる5つのハイマツ群落を対象とした。各調査地において,林床に円筒状のリタートラップ(直径約20cm:以下LT)を10個設置し,定期的(1〜2週間に1回)にリターを回収した。本発表においては,2011年の夏季(7月)から秋季(10月)に回収したLFと,10月から翌年の消雪期まで越冬させて回収したLFを年間量として扱った。回収したLFを器官毎に分類し,乾燥重量を測定した。また,LTの真上に位置していたハイマツの枝について,その主幹の長枝(年枝)について伸長量を測定し,同時に短枝(針葉)の最大葉齢を記録した。さらにその主幹の根際周辺の土壌水分を測定した。また,LT周辺に分布していたハイマツの枝先端部に温度ロガーを取付け,消雪日を推定した。これらの値を用いて,針葉のLF量の空間変異に及ぼす要因を検討した。
針葉LF量は,年枝伸長量と有意な正の相関を示し,また最大葉齢,土壌水分,消雪日と有意な負の相関を示した。針葉の最大葉齢が若く,年枝の伸長成長の高い葉層下ではLF量が多く,土壌水分が多く消雪日の遅い立地ではLF量が少なかった。これらの結果は,乾性で消雪時期が早い生育地での旺盛なハイマツの生長を示唆していると考えられた。