| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-034 (Poster presentation)
キョクチヤナギ黒紋病菌はRhytisma属の寄生性真菌類である。本菌の子実体はヤナギの生葉上で成長し、落葉上で成熟する。本研究では、北極という非常に厳しい環境に生育している本菌の生態を明らかにする一環として、生活環の重要な過程である子実体の成熟と子のう胞子の散布について調査し、それらを制限する環境要因について考察した。
2012年6-7月にノルウェー・スピッツベルゲン島・ニーオルスンで調査を行った。子実体の成熟過程を雪解け直後から定期的に顕微鏡下で観察した。同時に、子実体の成熟に水分が与える影響を明らかにするために、未成熟な子実体を自然乾燥状態、高湿度状態および直接水に接触している状態(接水状態)で培養した。一方、胞子の散布に関してはワセリンを塗布したスライドガラスをヤナギの葉の周囲に設置して胞子を捕集し、散布状況を調査した。
結果、雪解け直後の子実体は未成熟であり、約2週間後に成熟した。一方、培養実験では、接水状態のみ5日程で子実体が成熟し、子のう胞子を散布することが確認された。子のう胞子の散布は雨天時に見られ、降雨量と散布量には正の相関が認められた。
本菌は、短い着葉期間に感染して子実体を十分に成長させなければならない。そのため、雪解けからヤナギの展葉までに子実体が成熟するために十分な水の供給を得ること、その後の展葉期間中に胞子を散布させるために水の供給を得ることが必要である。調査地域は、基本的に乾燥しているため、液体として供給される水は通常雪解け水か雨水に限られる。このため、雪解け水と降雨は、子実体の成熟と子のう胞子の散布に大きな影響を及ぼし、本菌の分布を大きく制限していると考えられた。