| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-039 (Poster presentation)

水生・湿性植物55分類群の沈水状態における光合成炭素源

*山ノ内崇志,石川愼吾(高知大・院)

沈水状態にある水生植物は、水中の遊離炭酸(CO2*)濃度の低さや拡散速度の遅さのために、慢性的な光合成炭素源不足の状態にある。これに対する適応として水生植物は様々な炭素濃集機構を持ち、その一つに重炭酸イオン(HCO3)の利用がある。水生植物のHCO3利用能力には種間差があり、CO2*のみを利用する種群とCO2*に加えてHCO3を利用できる種群とに大別できる。また、CO2*とHCO3の濃度は水域によって大きく異なるため、これらは水生植物の分布および群落組成を規定する最も重要な要因の一つとなっている。現在、日本産水生植物の約半数は絶滅危惧種であり、炭素源についての情報は保全のためにも重要である。しかし、炭素源に関する研究の多くは欧米で行われており、日本産の種に関する情報は乏しい。本研究では、野外において沈水状態での生育が見られた水生・湿生植物55分類群についてpH推移実験を行い、上記のいずれの種群に属するかを判定した。

全体的な傾向として、浮葉・抽水葉を持つ水生植物の大部分と湿生植物はCO2*のみを利用し、また、ほとんどの沈水植物はHCO3を利用できると判断された。炭素源についての情報がある18分類群のうち、16分類群については先行研究での報告と一致した。フトヒルムシロとオヒルムシロは、先行研究ではCO2*のみを使用することが報告されていたが、本研究の結果では、CO2*濃度が低い条件下での光合成速度がHCO3濃度に影響され、特に十分に高いHCO3濃度(約10 mM)のもとではCO2*濃度がほぼ0でも炭素吸収が認められたことから、弱いながらHCO3利用能力を持つと考えられた。ミズオオバコは極めて低いCO2*濃度でも光合成が可能であったが、光合成速度はHCO3濃度にほとんど影響されなかった。このことから、本種がHCO3の利用とは異なる炭素濃縮機構を持つ可能性が示唆された。


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