| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-083 (Poster presentation)

三方湖のヒシ2系統間における成長特性の比較

*五十住遥(東京大・総合文化),西廣淳(東京大・農学生命),吉田丈人(東京大・総合文化)

アオコが発生するような富栄養の湖沼で、浮葉植物のヒシ(Trapa japonica)がアオコに代わって大規模に増える事例が、複数知られている。福井県に位置する三方湖においても、近年、ヒシが分布を急激に拡大した。ヒシの急増の原因は未解明であるが、本研究では、ヒシの遺伝的多型に注目した。近年に三方湖に持ち込まれたとされるヒシ(「導入型」)は、過去に湖から隔離され栽培されてきたヒシ(「在来型」)と遺伝的に異なり、種子の形態にも差異が見られる。そこで、富栄養環境でより適応的な成長特性を有するヒシ「導入型」が、ヒシ「在来型」に代わって大規模な群落を形成したという仮説を設定し、それを検証するための実験を行った。

三方湖にて採取されたヒシの種子を用いて、2012年5月7日から2012年10月2日の間、栽培実験を行った。種子はその形態から、「在来型」および「導入型」に選別した。また、栽培の条件には中栄養環境と富栄養環境を設定した。栽培期間の終了後にヒシを回収し、同化器官(葉)、非同化器官(茎・水中根・根)、種子の各部位ごとに、乾燥重量を計測した。また、種子数も計数した。

その結果、種子数、種子重量、非同化器官重量、総重量は、いずれも「在来型」と「導入型」の間に差は見られず、いずれの型も富栄養環境において中栄養環境より高い値を示した。そのため、ヒシはいずれの型においても、富栄養環境でより成長することが示唆された。一方、同化器官重量は、富栄養環境で栽培された「導入型」がとりわけ高い値を示し、「導入型」は「在来型」に比べ富栄養環境で葉の生産が盛んであり、富栄養環境により適応的である可能性が示された。「導入型」と「在来型」の成長特性の差異について、より詳細な分析を引き続き行いたい。


日本生態学会