| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-097 (Poster presentation)

太平洋型ブナ林の更新動態

*志澤理帆, 依田悦子, 遠藤幹康, 木村一也, 前田久美子, 丸田恵美子(東邦大・理)

ブナ(Fagus crenata)は九州から渡島半島に至る冷温帯に分布する。太平洋側のブナ林は、気候的な理由により更新が困難であるといわれているが、その原因は明らかではない。1994年から山梨県・神奈川県境の三国山(1343m)の北東斜面の天然ブナ林において、ブナ実生の消長を追跡調査してきた。過去4回の豊作後の発芽個体は数年で全て枯死したが、2007年の大量結実後の発芽個体は2012年でも1割程生存している。そこで、本研究では太平洋型ブナ林における実生の生存条件を明らかにする事を目的とした。この斜面上のコドラート(12×30m)を、地形やギャップの有無などの違いから、上部・中部・下部の3区画に区切った。実生の生存率は、下部で特に低かった。これは、下部には林冠ギャップがなく暗かったためと推定される。下草被度は上部で最も高く、下部に行くにつれて減少し、地表光量子密度は逆に高かった。下草上の散乱光透過率は、上部に行くほど高いため、上部ほど明るく草本層が繁茂しやすいと考えられる。上部は過去の林冠ギャップ形成により明るくなったことで実生の生存率を高めたが、一方で草本層の繁茂により実生が被陰されて近年は生存率が低下している。調査の結果、実生が生存しやすい環境は、林冠ギャップ形成後のまだ下草が繁茂していない時期であるという事が推定できる。また、2012年9月にシードトラップを設置し、落下種子量を測定した結果、落下種子総量は206個/m2であった。2012年は大量結実年といえる事から、今後はこの実生の消長についても調査していく必要がある。


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