| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-116 (Poster presentation)

中部地方の高山帯に進出したニホンジカの食性:八ヶ岳と南アルプスの事例より

*鏡内康敬,高槻成紀(麻布大学・獣医)

高山環境にまで進出したシカ(ニホンジカ,Cervus nippon)は,一年中高山帯にいるわけではなく,雪解けの始まる6月頃から11月頃までは亜高山帯上部から高山帯に至る高山環境を利用するが,冬期は低標高地を利用する季節移動をすることがわかってきた(泉山・望月 2008)。しかし,食性については,定量的な調査・分析は行われていない。そこで,本研究では,季節ごとの山地帯,亜高山帯,高山帯のシカの食性を,糞分析により明らかにすることを目的とした。中部地方の2ヶ所の山岳地帯(八ヶ岳の硫黄岳周辺,南アルプス北部の仙丈ヶ岳周辺)で新鮮なシカの糞を採集し,光学顕微鏡によりポイント枠法で定量分析して,以下の結果を得た。

1)八ヶ岳の山地帯では,季節により差はあるもののササ(13〜56%)が重要であった。これに対して亜高山帯と高山帯では,ササ以外のグラミノイド(47〜56%)が高い占有率をとり,ササは1%未満と山地帯とは大きな違いがあった。

2)南アルプス北部では,山地帯,亜高山帯,高山帯のいずれでもササは1%未満であり,ササ以外のグラミノイドがとくに高山帯で大きな占有率をとった(35〜43%)。双子葉植物の葉が山地帯(11〜26%)と高山帯(12〜19%)で,また針葉樹の葉(2〜5%)とシダ葉(1〜13%)が亜高山帯で比較的高い占有率を示した。また,山地帯では,秋(9月)と冬(3月)に支持組織(ともに30%)が,秋(9月)と初冬(11月)に種皮・果実(13%と9%)が高くなった。

以上の結果から,高山帯に進出したシカは低標高のシカとは大きく異なる食性をもつようになったこと,季節により利用する食物が変化することが明らかになった。


日本生態学会